「がんばりすぎないで。〜ドラマShrink-精神科医ヨワイの現場から」
NHKの「がんばりすぎないで。」に出演しました
NHKドラマ「Shrink」の放映を前に、「がんばりすぎないで。〜ドラマShrink-精神科医ヨワイの現場から」が放映されました。主演の中村倫也さん、土屋太鳳さん(+カメ役のココリコの田中直樹さん)、および当事者代表である双極はたらくラボの松浦秀俊さん、パパゲーノの千葉真希さんと一緒に、僕も、精神科診療の現場、医療監修の現場の紹介も含めて、出演させていただきました。
23時からの放送ということで、少々迷ったのですが、僕はいつも23時頃には寝てしまうので、リズムを乱してはいけない!ということで、眠りにつき、朝、NHKプラスで観ました。
スタジオに加え、VTRでも次々と当事者の方々が出演され、双極症の理解につながる、素晴らしい番組になっていましたね! また、精神科外来に加え、訪問看護、就労移行支援など、さまざまなメンタルヘルスの現場を紹介して下さったのもありがたく思いました。
双極症を公表しているのはどんな人たち?
番組の中で、千葉さん、松浦さんの仕事場にも取材が入り、双極症とつきあいながら仕事をされているご様子が放映されたのは、とても画期的なことだったと思います。
双極症を公表する方が少しずつ増えてはきましたが、多くがアーティストや作家の方などだと思います。そのため、双極症の方は皆、芸術的才能があるのでは、と思われてしまうこともあるかも知れません。確かに、双極症と芸術的才能の関連を示す研究もあるのですが、公表する方の多くがアーティストなのは、こうしたご自身の才能で仕事をされている方だからこそ、公表しても仕事を続けることができる、という側面もあると思います。
しかし、言うまでもなく、一般の会社員、公務員などの方の中にも、双極症を持つ方はたくさんいらっしゃいます。海外では、こうした方々の中にも、双極症を持っていることを公表している方は多くいらっしゃり、例えばミシガン大学学長で、日系二世のサンタ・オノ先生は、以前からご自身が双極症を持っていることを公表しておられます。また、カナダのトルドー首相のお母さま、マーガレット・トルドーさんも、双極症を公表して、メンタルヘルスの啓発活動をしていらっしゃいます。
日本でも、歴史学者の與那覇潤氏が、「知性は死なない 平成の鬱をこえて」の中で、最近では、アベノミクスの立役者である経済学者浜田宏一氏が、「うつを生きる 精神科医と患者の対話(内田舞、浜田宏一著)」の中で、双極症体験を語っていますが、やはり、特別な才能を持った方々であることには変わりありません。
双極症を持ちながら色々な仕事で活躍している方はたくさんいらっしゃるのですが、それがなかなか伝わりにくいと思います。
だからこそ、今回、こうして当事者の方々が登場して下さったことは、大変意義があると思います!
「治った人に会わせて下さいよ!」
若かりし頃、再発を繰り返す患者さんに、必ず治りますよ、とお伝えしたところ、「先生は治る治るって言うけど、ここに入院している人は再発した患者さんばかりじゃないですか。治った人に会わせて下さいよ!」と言われた言葉は、今も心の奥底に残っています。
今回の番組のように、次々と当事者の方々が登場され、元気に仕事をされている様子が放映されることこそ、この病気にかかったばかりの患者さんにとって、大きな励みになるのではないでしょうか。
双極症を受け入れることは治療のゴール
番組の中で、「双極症を受け入れることは難しいことで、病気を受け入れることが治療のゴールだ」とお話しましたが、実は以前は、「受け入れることが治療のスタート」と話していました。しかし、当事者の方々の、「受容することは容易ではなく、それがスタートと言われると辛い。むしろゴールというべきでは?」という声を伺い、本当にそうだよなあ…と思って、今は、「病気の受容ができれば治ったようなもの。すなわちゴール」とお話しております次第です。
「嵐の中の灯台のように」
それにしても、中村倫也さんの精神科医ヨワイの演技を見ていると、本当に心が和んでしまい、観ているだけで癒やされるような気がします。中村倫也さん演じる精神科医ヨワイと土屋太鳳さん演じる看護師雨宮が待つ「ひだまりクリニック」も、(番組に映っていた)僕がいつも診察している部屋とはずいぶん雰囲気が異なり、何だかホッとする空間でしたね。
なお、中村さんが、精神科医の役作りの話の中で、精神科医の心得は「動かないこと」と仰っていました。これは僕が、「嵐の中の灯台のように、いつも変わらずそこにいることが大事」という、精神療法の師である故・宮内勝先生に、研修1年目に教わった言葉をご説明したものでした。今回の番組でも紹介されていたドラマのヨワイ先生は、まさに嵐の中の灯台のようでしたね。
なお、よく「双極症は脳の機能障害です」などと言われますが、今回、カメの田中さんが「神経細胞の機能障害」と語っているのに気づいていただけましたでしょうか? 「脳の機能障害」といってもまだまだ曖昧で、心の悩みとどこが違うのかな、と思われかねない感じもしてしまうのですが、僕としては、双極症は、特定の神経細胞群が過剰に興奮したり、ひょっとすると失われてしまうような、「細胞の病気」だと考えています。
今回の番組には、第二話の、松浦慎一郎さん演じる双極症の玄さんの姿、玄さんの入院のシーンも登場しました。
本編への期待感がますます高まりますね!
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