世界双極症デー
3月30日は、世界双極症デー(World Bipolar Day)です。
もちろん、僕が勝手に決めた訳ではなく、国際双極症財団(IBPF)、国際双極症学会(ISBD)、およびアジア双極症ネットワーク(ANBP)という3つの団体が、2014年に定めたのです。
一応僕も、IBPFのScientific Advisory Boardに入っており、2013年までISBDの理事をつとめていたので、関係者と言えなくもありませんが、1年のうちどの日を世界双極症デーにするか、という議論には参加していませんでした。参加していたら、ひとこと言いたかった…。3月末は、日本では年度末で、何をやるにも予算が動かせない、面倒な日。イベントを企画する側としては、何もこの日にしなくても…と思ってしまう訳です。
なぜ3月30日なのか? 実は、ゴッホ(Vincent van Gogh)の誕生日にちなんでいるとのことです。ゴッホは耳を切り落とす事件など、自傷行為を伴うエピソードがあり、耳を怪我した自画像も有名ですよね。
しかし、この頃(事件は1888年)の医学は、現在のようには発展していなかったので、正確な診断は難しかったことでしょう。ゴッホはてんかんだったという説もありますし、アルコール性気分障害だったかも知れません。
精神神経学会による精神科医師の倫理綱領の細則の7項に、「精神科医師が、自ら診察を行うことなく、衆目を集める人や著名人の精神状態や人格について、本人の同意なしに公の場で精神医学的な論評することは、専門的技能と地位双方の乱用にあたり、不適切です。」という項目があります。アメリカで通称、ゴールドウォーター・ルールと呼ばれているものです。個人的には、歴史上の人物といえども例外ではないような気もしますが、歴史上の人物の精神病理について研究する学問領域として、病跡学という領域が存在します。従って、歴史上の人物の精神医学的診断を議論することは社会的に許容されていると言えましょう。しかし、いずれにしても、ゴッホが双極症だったかどうかは、今となってはわかりようもありませんので、双極症の旗印としてゴッホをかつぐのは、如何なものだろうか、と思っております。
ということで、何で3月30日と勝手に決めたんだ…、とぶつぶつ申し述べましたが、とにかく、3月30日と決まったからには、ということで、2015年から、日本うつ病学会では、この日の前後に、双極症の理解を増進するための活動を行うことになりました。
この世界双極症デーは、双極症への理解を深め、社会的なスティグマをなくすために作られました。この「世界双極症デー」を契機に、双極症に対する社会の理解が深まり、この病気と共に生きる人たちが等身大に理解され、病気に翻弄されることなく人生を送ることができる社会が実現するよう願って、多くの方々に双極症を知っていただきたいと思い、フォーラムを開催してきた訳です。

これまでの世界双極症デー・フォーラム(日本うつ病学会主催)
最初は、双極症を知らない人にこそ知って欲しい!と思い、メディア懇談会を行ったのですが、メディカルトリビューンさんが取り上げてくださった他は、あまり取り上げてもらえず、少々気落ちしました。
翌年からは、主に双極症患者さんを対象として、会を開いています。
幅広い方々に興味を持っていただこうと、第3回では、芥川賞作家の絲山秋子さん、第5回では、歴史学者の與那覇潤さん、と双極症を持っている著名人の方々をお招きしました。
世間では、躁状態は楽しくて良いのでは?という誤解を持つ人もいる中で、絲山秋子さんが、作品を書く時は一行たりともいい加減には書けない、躁状態では決して作品を書くことは出来ない、と、作家としては自明のことを、明言してくださったことは、躁への誤解を解くことに繋がったと思います。また、病気になって良かった、という話を聞くことはありますが、與那覇潤さんの双極症体験からの論考は、本当に、双極症体験が知的生産につながることがあるんだ、と目から鱗が落ちるような思いでした。いずれも、やはり、作家の表現力、学者の洞察力は素晴らしいと改めて感じさせる回でした。
2020年は、初めて東京以外で開催することになり、名古屋での開催を予定していました。しかし、新型コロナウイルスが猛威をふるい始めていたため、やむなく開催中止となりました。翌年、名古屋大学の尾崎紀夫先生の主催ながら、Web開催することになりました。おかげで、遠方からでも参加できるようになりました。その後、コロナ禍もあって、Web開催が定着していました。
今年は、世界双極症デー・フォーラムも第10回となります。今回だけは、やはり現地開催したい!との思いから、僕自身が運営を引き受けることにして、順天堂大学小川講堂で開催することになりました!

これまで、Web開催で参加できたのに、現地開催で今年は参加は無理か…と皆様をがっかりさせてしまってはいけませんので、現地、Web併用のハイブリッド開催と致しました。
実はこの、ハイブリッド開催というのが、一番お金がかかるんですよね…。オンラインのみだと費用はかなり節約でき、現地開催だと、会場の料金次第という感じですが、ハイブリッド開催には高度な音響技術が必要となるため、どうしても費用がかさむのです。そこを何とか学会に頼み込み、この度、初めてのハイブリッド開催が実現しました。
特別講演には、ハヤカワ五味さんをお招きしました。ハヤカワさんは、大学在学中にランジェリーブランド「feast」を立ち上げた企業家の方で、双極症Ⅱ型であることを公表されています。僕は、双極はたらくラボの松浦秀俊さんとの対談で初めてハヤカワさんのお話を拝聴し、ぜひお願いしたい!と思いました次第です。
以前、患者さんから、「先生は治る治るっていうけど、病棟は再発して入院した人ばかりじゃないですか! 治った人に会わせて下さいよ!」と言われて以来、双極症を克服している方の体験を多くの方に伝えたいとの思いをずっと持っていましたので、ハヤカワさんのように、会社を経営している方のお話は大変貴重です。そして、お話のタイトルは、「双極症の治療とアイデンティティ」。うーん、これは、僕自身、ぜひ伺ってみたい内容です。楽しみですね。
そして、世界双極症デー開始時以来、何度もお世話になっている、ノーチラス会には、ぜひご参画をお願いしたいと、鈴木映二先生に、「双極症啓発の10年(当事者活動を含めて)」というお話をいただきます。一応、僕も、「双極症研究の10年」というタイトルで、双極症研究の進歩について、お話したいと思います。
前回、第9回のフォーラムを仕切って頂いた、双極はたらくラボさんにもぜひご参画いただきたい!と思い、松浦秀俊さんに、パネルディスカッションにご参加いただくことになりました。
こうなると、最後のパネルディスカッションをまとめるのはなかなか難儀では?と気になってしまいました。そこで、ここはプロにお願いさせて頂きましょう!ということで、フリーアナウンサーの藪本雅子さんに、モデレーターをお願いしました。
藪本さんは、1990年代、日本テレビの「きょうの出来事」のキャスターを務めていらっしゃり、いつもテレビで拝見しておりました。その後、アイドルグループDORAのメンバーとしてアルバムも発表されています。(学生時代にはバンド「ジューシーフルーツ」のキーボードも担当しておられました。) そんな藪本さんですが、日本テレビ退職後、「女子アナ失格」を出版(当時、購入して読みました!)、上智大学大学院でメディアと人権を研究して修士号を取得された後、ハンセン病問題など、幅広く活動されています。10年以上前に、「うつ病・認知症コンソーシアム」でお世話になったご縁で、お願いさせていただきました。
どんなパネルディスカッションになるのか、私も今から楽しみです。
第10回世界双極症デー・フォーラム、会場の座席はまだ大丈夫ですので、ご参加頂ける方は、ぜひこちらより、お申し込み下さい!
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